「確定申告の記帳、AIに手伝ってもらえないだろうか」
個人事業主として帳簿をつけていると、必ずこう思う瞬間があります。レシートの山を前にして、この支出はどの勘定科目なのか、この仕訳で合っているのか、毎回調べながら進めるのは骨が折れます。
私は会計ソフトを使わず、Excelで複式簿記の帳簿をつけています。そしてその作業の相棒として、実際にAIを使っています。
結論から言うと、AIは記帳の作業を確実にラクにします。ただし「任せていい部分」と「絶対に任せてはいけない部分」がはっきり分かれます。ここを混同すると、間違った帳簿ができあがります。
この記事では、実際にAIと一緒に記帳してわかった、使える場面・使えない場面を正直にまとめます。

AIは「調べ物と下書き」が得意で、「最終判断」は苦手です。この線引きさえ守れば、強力な相棒になります。
AIに任せていいこと・任せてはいけないこと
まず全体像です。ここが記事の一番大事な部分です。
| 任せていいこと | 任せてはいけないこと |
|---|---|
| 勘定科目の候補を挙げてもらう | 最終的にどの科目にするかの決定 |
| 仕訳の下書きを作ってもらう | 確認せずそのまま帳簿に転記すること |
| Excelの数式を書いてもらう | 税額や控除額の計算そのもの |
| 用語や制度の意味を教えてもらう | 「経費にできるか」の最終判断 |
| 試算表が合わない原因を一緒に探す | マイナンバー・口座番号を渡すこと |
ポイントは、AIは「下書き係」であって「税理士」ではないということです。申告内容の責任は最終的に自分にあります。AIが言ったから、は税務署に通用しません。
AIが出した仕訳は、正しいとは限らない
使い方の話に入る前に、どうしても先に書いておきたいことがあります。AIが出した仕訳は、正しいとは限りません。
やっかいなのは、間違っていても「正しそうな形」で返ってくることです。日付・摘要・借方・貸方・金額がきれいに並んだ表が出てくるので、見た目には完成品に見えます。でも中身の科目が違っていることは普通にあります。
⚠️ 一番危ないのは「わからない人ほど、そのまま使ってしまう」こと
私は勘定科目がある程度わかるので、AIの仕訳を見て「これは違う」と気づいて直せます。でも科目を知らない人は、間違いに気づく手段がありません。出てきたものをそのまま帳簿に入れることになります。
つまりAIは、簿記がわかる人ほど安全に使えて、わからない人ほど危険という、少し意地悪な道具です。ここを知らずに使うのが一番こわいパターンです。
実際にAIが間違えたパターン
私が実際に見つけて直したものを挙げます。
- 事業と私的な支出の区別ができない:明細の店名だけでは判断できないので、生活費まで経費にしてしまう
- 同じ支出を月によって違う科目にする:同じサービスの月額が、ある月は通信費、別の月は支払手数料になる
- 借方と貸方が逆:特に事業主借と事業主貸の取り違えが多い
- 10万円以上のものを消耗品費で一括計上する:本来は固定資産として扱う必要がある
- 自分が使っていない科目を勝手に作る:「広告宣伝費」と「販売促進費」が混在するなど
どれも、あとから集計したときに数字がずれる原因になります。特に1つ目は、税務調査で最も指摘されやすい部分です。
最低限これだけは自分で確認する
全部を細かく見直すのは大変なので、私は次の4点だけは必ず目で見るようにしています。ここを押さえておけば、大きな事故は防げます。
| 確認すること | なぜ |
|---|---|
| ①事業と関係ない支出が混ざっていないか | 一番指摘されやすく、金額も大きくなりやすい |
| ②同じ店名・同じ内容が同じ科目になっているか | 科目がぶれると月次の比較ができなくなる |
| ③10万円以上の支出がないか | 一括で経費にできず、扱いが変わるため |
| ④金額の大きい順に上位10件 | 間違えたときの影響が大きい順に潰せる |
②は、Excelで科目名の列を並べ替えると一目でわかります。同じ内容なのに違う科目が並んでいたら、そこが直すべき場所です。

AIの答えを「確認する力」がない状態で使うのが、一番危ない使い方です。
実際にAIを使っている場面①:勘定科目の相談
一番よく使うのがこれです。「この支出はどの科目にすればいい?」という相談です。
たとえばブログ運営だと、こういう迷いが日常的に出てきます。
- サーバー代は通信費? それとも支払手数料?
- 有料のAIツールの月額は何費になる?
- ブログ用に買った本は新聞図書費でいい?
- オンラインサロンの会費はどこに入れる?
こういうときにAIに聞くと、候補と理由をセットで出してくれます。検索して複数のサイトを読み比べるより、はるかに早く判断材料がそろいます。
ただし返ってくるのはあくまで一般論です。同じ支出でも事業の内容によって適切な科目は変わります。最後に「自分の事業ではどれが実態に近いか」を決めるのは自分の仕事です。
コツ:先に自分の勘定科目リストを渡す
これをやるかどうかで精度が大きく変わります。何も渡さずに聞くと、自分が使っていない科目名で答えが返ってきて、結局振り分け直すことになります。
先に「私が使っている科目はこの25個です」とリストを渡してから聞くと、その中から選んで答えてくれるので、そのまま帳簿に使えます。この一手間が効きます。
実際にAIを使っている場面②:明細の仕分けの下書き
クレジットカードや銀行の明細を見ながら、1件ずつ仕訳を起こす作業。ここが記帳で一番時間を食う部分です。
明細のデータを渡して「これを仕訳の形にして」と頼むと、日付・摘要・借方・貸方・金額の形に整えてくれます。ゼロから手打ちするのに比べれば、作業時間はかなり縮みます。
ただしそのまま信用してはいけません。実際にやってみると、次のような取り違えが起きます。
- 事業の支出と私的な支出が混ざっている明細で、私的なものまで経費にしてしまう
- 店名だけでは判断できない支出を、それっぽい科目に決めつけてしまう
- 同じ店名なのに、月によって違う科目を割り当ててしまう
特に3つ目は見落としやすく、あとから集計したときに数字がぶれる原因になります。AIが作った下書きは、必ず自分で1行ずつ確認するという前提で使ってください。

同じ店名には必ず同じ科目を。ここがぶれると、月次の比較ができなくなります。
実際にAIを使っている場面③:Excelの数式づくり
ここはAIが最も得意で、しかも間違いが起きにくい領域です。数式は結果が画面に出るので、正しいかどうかがその場でわかるからです。
記帳用のExcelでよく使うのは、この3つです。
| やりたいこと | 使う関数 |
|---|---|
| 仕訳帳から科目別・月別に集計する | SUMIFS |
| 借方と貸方の合計が合っているか確認する | SUM + IF |
| 科目名を選択式にして入力ミスを防ぐ | 入力規則(プルダウン) |
「仕訳帳シートのC列が科目名、E列が金額、A列が日付。科目別かつ月別に集計する式を作って」のように、シート名と列の役割を具体的に伝えるのがコツです。ここを曖昧にすると、修正のやりとりが増えて逆に時間がかかります。
実際にAIを使っている場面④:試算表が合わないときの原因探し
Excelで記帳していて一番つらいのが、借方と貸方の合計が一致しない場面です。1円のズレを探して100行以上を見直すことになります。
このとき、AIに「差額はいくらで、どういう原因が考えられるか」を相談すると、探す順番を教えてくれます。よくあるのは次のパターンです。
- 差額が偶数で、その半分の金額の仕訳がある → 借方と貸方を逆に書いている
- 差額が9で割り切れる → 桁の入れ替え(1,200を2,100と書いた等)の可能性
- 差額がちょうどある1件の金額と同じ → その仕訳が片方だけ入力されている
この「差額が9で割り切れたら桁の入れ替えを疑う」という考え方は簿記の世界では古くから知られたものですが、知らないと延々と探し続けることになります。こういう調べ物こそAIの出番です。
AIを使った記帳の、1か月の流れ
「AIを使う」といっても、毎日パソコンに向かうわけではありません。私は月に1回、1〜2時間だけまとめて処理する形にしています。この形に落ち着いた理由は、そのほうが確実に続くからです。
| 手順 | やること | 担当 |
|---|---|---|
| ①明細を出す | 事業用口座とカードの明細をダウンロードする | 自分 |
| ②私的な支出を外す | 事業と関係ない行をあらかじめ消す | 自分(重要) |
| ③仕訳の下書き | 科目リストを渡して仕訳の形に整えてもらう | AI |
| ④1行ずつ確認 | 科目が実態と合っているかを目で見る | 自分(重要) |
| ⑤仕訳帳に貼る | Excelの仕訳帳シートに追記する | 自分 |
| ⑥検算 | 試算表で借方と貸方が一致するか確認 | Excel(自動) |
| ⑦レシート保管 | その月の封筒に入れて閉じる | 自分 |
この流れで大事なのは②と④が人間の仕事だという点です。ここを飛ばしてAIに丸投げすると、私的な支出が経費に紛れ込みます。これは税務調査で最も指摘されやすい部分です。
逆に言えば、②と④さえ自分でやれば、あとは安心して任せられます。一番時間がかかる③(1件ずつ仕訳の形に起こす作業)が消えるだけで、体感の負担はかなり変わります。
1年の流れ:いつ、何をやるか
確定申告は3月の作業だと思われがちですが、3月にやることは実はほとんどありません。1年を通して少しずつ進めておくのが、結局いちばんラクです。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 毎月 | 上の①〜⑦を1回。ためないことが最大のコツ |
| 11〜12月 | 経費の入れ忘れがないか確認。必要な備品はこの時期までに買う |
| 12月31日 | 年末時点の預金残高・現金残高を記録(貸借対照表に必要) |
| 1月 | 1年分の試算表を確認。家事按分の計算をする |
| 2月 | 国税庁の作成コーナーに数字を入力。控除の書類を集める |
| 3月15日まで | e-Taxで提出。1日でも遅れると65万円控除が10万円に |
毎月きちんと記帳できていれば、1〜3月にやるのは「集計して、転記して、送信する」だけです。逆に1年分をためると、明細を1年分さかのぼって思い出す作業になり、確実に心が折れます。

12月31日の残高メモだけは忘れないでください。あとから正確に思い出すのは、ほぼ不可能です。
やってはいけない使い方
①個人情報をそのまま渡す
マイナンバー、口座番号、クレジットカードの番号は入力しないでください。記帳に必要なのは日付・金額・内容だけで、これらの番号は不要です。明細を渡すときは、口座番号やカード番号の部分を消してから渡します。
②税額の計算を任せる
所得税の計算、控除額の判定、消費税の扱い。この領域はAIに任せてはいけません。制度が細かく、年によって変わり、個人の状況で結論が変わるためです。
税額の計算は国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使ってください。数字を入力すれば自動で正しく計算され、そのままe-Taxで提出できます。無料です。
③「経費にできる」という答えを鵜呑みにする
経費になるかどうかは、その支出が事業に必要だったかで決まります。同じ支出でも、人によって答えが変わります。AIは一般論しか知らないので、判断の材料としては使えても、結論として採用してはいけません。
迷う金額が大きい場合や、判断に自信が持てない場合は、税務署に直接聞くのが確実です。無料ですし、確定申告期には相談窓口も開かれます。
AIを使っても、記帳がラクにならない人
正直に書きます。AIを使っても作業がラクにならないケースがあります。
それは簿記の基本がわからない場合です。AIが出した仕訳が正しいかどうかを判断できないなら、確認作業ができません。確認できない下書きは、あってもなくても同じです。むしろ「AIが言ったから正しいはず」と思い込むぶん、危険が増します。
この場合は、AIで頑張るより会計ソフトを使うほうが安全です。会計ソフトには銀行やカードの明細を自動で取り込み、科目まで提案してくれる機能があります。しかも会計のルールに沿った形でしか入力できないようになっているので、そもそも大きく間違えにくい作りになっています。
📊 自動で仕訳をしてくれるソフトを検討するなら
銀行・カードの明細を自動で取り込み、勘定科目まで提案してくれるのがクラウド会計ソフトです。料金やできること、つまずきやすい点を実務目線でまとめました。
よくある質問
Q:AIで作った帳簿でも確定申告に使えますか?
A:使えます。帳簿に求められるのは正しい形式と内容であって、作成に何を使ったかは問われません。ただし内容の正しさは自分で担保する必要があります。
Q:無料のAIでも十分ですか?
A:勘定科目の相談やExcelの数式づくりであれば、無料のもので十分です。明細をまとめて処理したい場合は、長い文章を扱える有料版のほうが快適です。
Q:AIが間違えたら誰の責任になりますか?
A:申告した本人の責任です。ここが最も重要な点です。AIはあくまで下書きの道具であり、提出した内容の責任は自分にあります。
Q:会計ソフトとAI、両方使う意味はありますか?
A:あります。ソフトは明細の取り込みと仕訳の自動化が得意で、AIは「この処理でいいのか」という調べ物や、制度の意味を理解する場面で役に立ちます。役割が違うので、併用しても無駄になりません。
まとめ
AIは確定申告の記帳を確実にラクにします。ただし、ラクになるのは調べ物と下書きの部分だけです。
- AIが出した仕訳は正しいとは限らない。最終確認は必ず自分でやる
- 勘定科目の候補出し、Excelの数式づくり、原因探し → AIが得意
- 最終的な科目の決定、経費かどうかの判断、税額の計算 → 人間(または税務署・税理士)の仕事
- マイナンバーや口座番号は渡さない
- 簿記の基本がわからないなら、AIより会計ソフトのほうが安全
そしてもう一度書いておきます。AIが出した仕訳を、そのまま帳簿に入れてはいけません。間違いに気づける人にとっては最高の時短道具ですが、気づけない人にとっては、間違いを高速で量産する道具にもなります。この差はとても大きいです。
AIを「答えをくれる存在」だと思うと事故が起きます。「調べ物と下書きを高速でやってくれる相棒」だと思って使うと、記帳の負担は目に見えて軽くなります。

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