「確定申告のために会計ソフトを契約したほうがいいのかな。でも毎年お金がかかるし、Excelが使えるなら自分で作れないだろうか」
個人事業主として開業すると、必ずぶつかるのがこの悩みです。特にExcelを仕事で使い慣れている人ほど、「これくらい自分で組めるのでは」と思うものです。
結論から言うと、確定申告の帳簿はExcelでも作れます。青色申告65万円控除も、条件さえ満たせば会計ソフトなしで取れます。ただし、向いている人とそうでない人がはっきり分かれます。
私は経理の仕事を17年続けたあと、2025年11月に個人事業主として開業しました。1年目(2025年分)は会計ソフトの無料版を使って申告し、2年目の今年(2026年分)はあえて会計ソフトを使わず、Excelで複式簿記の帳簿を自作して記帳しています。両方を実際にやったからこそ見えた、それぞれの向き不向きを正直にまとめます。

「Excelでできる」と「Excelでやったほうがラク」は別の話です。ここを分けて考えると、判断を間違えません。
結論:Excelでも青色申告65万円控除は取れる
まず大前提として、税務署は「会計ソフトで作った帳簿でなければダメ」とは一言も言っていません。求められているのは「正しい形式の帳簿があること」だけです。
つまり、Excelで作った帳簿でも、必要な形式を満たしていれば何の問題もありません。手書きの帳簿でも認められます。
ただし、65万円控除を取るには次の4つをすべて満たす必要があります。1つでも欠けると、控除額が55万円や10万円に下がってしまいます。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| ①複式簿記で記帳 | 「借方」「貸方」の両方を書く形式。単式(お小遣い帳のような形)では不可 |
| ②貸借対照表と損益計算書を提出 | 青色申告決算書に両方を記載する |
| ③e-Taxで申告 または電子帳簿保存 |
紙で提出すると55万円に下がる。ここが一番の落とし穴 |
| ④期限内に提出 | 原則3月15日まで。1日でも遅れると控除は10万円に |
Excelで作る場合に自力で用意しなければならないのは①と②です。③のe-Taxは国税庁の「確定申告書等作成コーナー」から誰でも無料で使えるので、ソフトの有無は関係ありません。
私の1年目:会計ソフトの無料版で申告した
開業した2025年分(1年目)は、会計ソフトの無料版を使って、2026年3月に申告を済ませました。無料版でも65万円控除に必要な決算書はきちんと作れます。
正直に言うと、1年目にソフトを使ったのは「申告のゴールの形」を知らなかったからです。最終的にどんな書類が必要で、どの数字がどこに入るのかがわからない状態でExcelを組み始めるのは、地図を持たずに山に入るようなものです。
ソフトを使うと、入力さえすれば決算書の形まで自動で出てきます。おかげで「ゴールはこの形か」というのが体でわかりました。
私の2年目:Excelで複式簿記の帳簿を自作した
2年目の今年(2026年分)は、会計ソフトを使わずExcelで帳簿を作っています。1年目でゴールの形がわかったので、「これなら自分で組める」と判断したためです。
実際に作ったのは、次の5つのシートが連動するファイルです。
| シート | 役割 |
|---|---|
| ①仕訳帳 | 取引を1行ずつ入力する場所。ここだけが手入力で、あとは自動 |
| ②月次推移 | 科目ごとの月別集計。SUMIFS関数で仕訳帳から自動集計 |
| ③試算表 | 借方と貸方の合計が一致するかを確認する検算表 |
| ④損益計算書 | 1年の売上と経費、利益を出す |
| ⑤貸借対照表 | 年末時点の資産と負債。65万円控除に必須 |
ポイントは、手入力するのは①の仕訳帳だけにすることです。②〜⑤はすべてSUMIFS関数で仕訳帳から拾ってくるようにしておけば、入力した瞬間に決算書まで自動で更新されます。
勘定科目はプルダウン(入力規則)にしておくと、表記ゆれが起きません。「消耗品費」と「消耗品」が混ざると集計が合わなくなるので、ここは必ずプルダウンにしてください。

科目のプルダウン化は必ずやってください。表記ゆれの修正は、あとからやると本当に大変です。
ブログ・ネット事業でよく使う仕訳10例
Excelで記帳するとき、いちばん手が止まるのが「この取引、どう書けばいいんだろう」という場面です。ブログやネット系の事業でよく出てくる取引を、そのまま写せる形でまとめました。
| 取引 | 借方(左) | 貸方(右) |
|---|---|---|
| アフィリエイト報酬が入金された | 普通預金 | 売上高 |
| サーバー代を事業用カードで払った | 通信費 | 未払金 |
| カードの引き落としがあった | 未払金 | 普通預金 |
| ドメイン更新料を払った | 通信費 | 普通預金 |
| 参考書を現金で買った | 新聞図書費 | 現金 |
| 自宅の電気代の30%を経費にした | 水道光熱費 | 事業主借 |
| 自分のお金を事業用口座に入れた | 普通預金 | 事業主借 |
| 事業用口座から生活費を引き出した | 事業主貸 | 普通預金 |
| 振込手数料を取られた | 支払手数料 | 普通預金 |
| 12万円のパソコンを買った | 工具器具備品 | 普通預金 |
特に間違えやすいのが下の3つです。
「事業主借」と「事業主貸」の使い分け
個人事業主だけに出てくる、最初につまずく科目です。考え方はシンプルで、お金が「プライベート→事業」に動いたら事業主借、「事業→プライベート」に動いたら事業主貸です。
自分のサイフから事業の経費を払ったときは「事業主借」。事業の口座から生活費を出したときは「事業主貸」。この2つだけ覚えておけば、家事按分もプライベート資金の投入も処理できます。
クレジットカード払いは2回に分けて書く
カードで払った経費は、①使った日と②引き落とし日の2回に分けて仕訳します。使った日に「通信費/未払金」、引き落とし日に「未払金/普通預金」です。
1回で済ませたくなりますが、こうしないと年末をまたいだときに経費の年度がずれてしまいます。12月に使って1月に引き落とされた分は、12月の経費になります。
10万円以上のものは一括で経費にできない
パソコンなど10万円以上のものは、買った年に全額を経費にできず、原則として数年に分けて減価償却します。ただし青色申告なら30万円未満のものを一括で経費にできる特例(少額減価償却資産の特例)が使えます。この特例は青色申告の大きなメリットの1つです。
家事按分の考え方
自宅で作業している場合、家賃・電気代・通信費の一部を経費にできます。これが家事按分です。
| 項目 | よく使われる基準 |
|---|---|
| 家賃 | 仕事に使う部屋の面積 ÷ 家全体の面積 |
| 電気代 | 作業時間 ÷ 24時間、または面積比 |
| ネット回線・スマホ | 仕事で使う割合(30〜50%が一般的) |
大事なのは「なぜその割合にしたか」を説明できることです。根拠なく50%にするのではなく、「6畳の部屋を仕事場にしていて、家全体が30畳だから20%」のように計算の筋道を残しておきます。Excelなら按分の計算式をそのままシートに残せるので、この点はむしろソフトより有利です。
Excelで帳簿を作ってよかったこと
①中身が全部わかる
一番大きいのはこれです。自分で組んだので、どの数字がどこから来ているのかを完全に把握できます。ソフトだと「なぜかこの数字になっている」という場面がありますが、Excelなら数式をたどれば必ず原因にたどり着けます。
②費用がゼロ
会計ソフトは年間1万円前後かかります。事業が小さいうちは、この固定費が地味に重くのしかかります。Excelなら追加費用はかかりません。
③自分の見たい形に作り替えられる
「この経費だけ月別に見たい」「ブログごとに売上を分けたい」といった集計は、Excelなら関数を1つ足すだけです。ソフトの決まった画面に合わせる必要がありません。
正直しんどかったこと
いいことばかりではありません。実際にやってみて「これはきつい」と感じた点も正直に書きます。
①借方と貸方が合わないときの原因探し
試算表で差額が出たとき、原因を探す作業がとにかく大変です。1円合わないだけで、100行以上ある仕訳を上から見直すことになります。ソフトなら入力時点でエラーを出してくれる部分です。
②明細をすべて手入力する必要がある
これが最大の差です。クラウド会計ソフトは銀行口座やクレジットカードを連携すると、明細が自動で取り込まれ、勘定科目まで推測して提案してくれます。Excelにはこの機能がありません。
取引が月に10件程度なら手入力でも問題ありませんが、月に50件、100件と増えてくると、入力だけで週末がつぶれます。
③制度が変わったときに自分で直す必要がある
インボイス制度や電子帳簿保存法のように、ルールは数年おきに変わります。ソフトなら勝手に対応してくれますが、Excelは自分で調べて自分で直すことになります。
会計ソフトを使うべき人・Excelで足りる人
両方やった経験から、判断の分かれ目をまとめました。
| Excelで足りる人 | 会計ソフトを使うべき人 |
|---|---|
| 取引が月10〜20件くらいまで | 取引が月30件を超える |
| 簿記の知識がある(借方・貸方がわかる) | 簿記を勉強したことがない |
| SUMIFS関数を自分で書ける | Excelの関数に自信がない |
| 事業用の口座・カードが1〜2個 | 口座やカードが複数ある |
| 固定費を1円でも減らしたい | 時間をお金で買いたい |
| 消費税の免税事業者 | インボイス登録をしている |
特に「簿記の知識があるか」が最大の分かれ目です。私は経理を17年やってきたので借方・貸方の判断に迷いませんが、ここが曖昧なままExcelで組むと、間違った帳簿が出来上がってしまいます。それは65万円控除が否認されるリスクにつながります。
簿記に自信がない場合は、素直に会計ソフトを使うほうが安全です。年1万円で「間違えない仕組み」が買えると考えれば、決して高くありません。
📊 会計ソフトを検討するなら
クラウド会計ソフトの中でも、銀行・カードの自動連携に強いのがマネーフォワード クラウド確定申告です。料金・できること・つまずきやすい点を、実務目線でまとめました。
どちらを選んでも、これだけは先にやっておく
Excelでもソフトでも共通で必要な準備が3つあります。ここを飛ばすと、どちらを選んでも詰みます。
①事業用の口座とカードを分ける
生活費と事業費が同じ口座で混ざっていると、記帳の手間が何倍にもなります。開業したらまず、事業専用の口座を1つ作ってください。これだけで作業量が半分近くになります。
②青色申告承認申請書を出しておく
これを出していないと、そもそも65万円控除の対象になりません。原則として開業から2か月以内、または適用を受けたい年の3月15日までが期限です。忘れていた場合、その年は白色申告になります。
③レシートは月ごとに袋分けする
帳簿の形式より、実はここでつまずく人が多い部分です。レシートは7年間の保存義務があります。月ごとに封筒に入れるだけで十分なので、ためこまないことが何より大事です。

口座を分けるかどうかで、記帳の負担は本当に変わります。まだ分けていない方は今すぐどうぞ。
よくある質問
Q:Excelの帳簿でも税務調査は大丈夫ですか?
A:問題ありません。求められるのは正しい形式の帳簿と、その裏付けとなる領収書・請求書です。作成した道具がExcelか会計ソフトかは問われません。
Q:無料のテンプレートを使ってもいいですか?
A:使って構いません。ただし複式簿記に対応しているか(借方・貸方の欄があるか)、貸借対照表まで作れるかを必ず確認してください。単式簿記のテンプレートだと65万円控除は取れません。
Q:途中でExcelから会計ソフトに乗り換えられますか?
A:できます。多くのソフトはCSVでの仕訳インポートに対応しています。ただし年の途中で切り替えると残高の引き継ぎが手間なので、切り替えるなら年明け(1月1日)からがおすすめです。
Q:会計ソフトの無料版だけで65万円控除は取れますか?
A:取れます。私も1年目は無料版で申告しました。ただし無料期間が終わると有料になるものが多いので、2年目以降の費用は事前に確認しておいてください。
Q:簿記の資格は必要ですか?
A:資格は不要です。ただしExcelで自作するなら、簿記3級レベルの知識(借方・貸方の考え方)は実質的に必要になります。
まとめ
確定申告の帳簿は、Excelでも作れます。青色申告65万円控除も取れます。ただし判断の分かれ目は「Excelが使えるか」ではなく、「簿記がわかるか」と「取引の件数」です。
- 簿記がわかり、取引が月20件以下 → Excelで十分
- 簿記に自信がない、または取引が多い → 会計ソフトのほうが安全で速い
- 迷ったら、1年目はソフトを使って「ゴールの形」を覚えるのが近道
私自身、1年目にソフトを使ってゴールを知ったからこそ、2年目にExcelへ移ることができました。いきなりExcelから始めていたら、たぶん途中で挫折していたと思います。


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